陸軍工兵から施設科へ(51) 幻の弾丸列車計画(4)

相変わらずの「国葬反対」論──外国特派員協会での発言

 9月14日、日本外国特派員協会に安倍氏の国葬儀に反対する論者が招かれて、主張を語り、記者たちの質問を受けました。その内容は、相も変わらず・・・といっては失礼ですが、わたしよりちょっと年長の「進歩主義史観」、あるいは「団塊反体制主義者」の陳腐な主張の繰り返しで新味を覚えない内容でした。
 それぞれ学識を積まれ、立派なお仕事をなさってきた方々ですが、「若い人との対話を怠ってきた」という反省の弁が、陳腐ながら、まず新鮮でした(笑)。若い人は変化のない社会に生きて来た、だから変化の大切さを知らないとの仰せです。よく聞くと、この半世紀の変化をほとんど感じないで来られたのかと思います。わたしのような庶民からすれば、この半世紀は変化の連続でした。
 1ドル=360円の固定相場だったのが、100円になったり、今は145円にもなったりしています。子供の数は減り、社会の変化は明らかですが、彼らにとっては変わっていない。そうか、変化というのは大きな社会変革、つまり革命のことだと思っているんだと、あらためて驚きました。
 そうした思考の流れからすれば、安倍氏の国葬儀などは決して許されてはならないものでしょう。大きな声で騒ぎ、デモをすることには意義があるわけです。
 反対運動の中には実力行使を訴える方々もいます。「武道館を包囲する」という女性政治家(東京の某区議会議員)に言わせると、国葬儀は「日米協力の中国侵略戦争」を進めるものだそうです。わが国はどこかの国々とは異なり、思想・信条は自由だし、それを公表する権利も保護されます。
しかし・・・根拠もない「秘密の侵略作戦計画」を自衛隊はもっていると主張し、九州の射撃場で対戦車ミサイルを米軍と共に撃ったのがその証拠だというのです。そんなデマゴーグが公費で活動する区議会議員でいられることも、自由の国、わが国の証拠と言えましょう。
 そういった一笑に付されるような言説で国葬儀に反対する人たちが、実はけっこう多いということに安心しました。いやいや、油断するなよという声も聞こえます。わが国のような民主主義社会では、時としてノイジー・マイノリティー(大声を出す少数者)が過剰に保護されるきらいがあります。
 嫌になるのは野党の方々の言説でした。招待状を受け取り、それをことごとしくSNS上で公開し、欠席することを公言する方々がいました。政治的な活動、アピールといわれたら認めざるを得ませんが、品位のない行為だなと思います。
 特派員協会の会見の場ででも言われていました。故人の冥福を祈ることと、故人の政治的な実績を評価することと、政治的信条を主張することは全く別という方々の言葉は認めます。しかし、葬儀の日に事を起こすという生き方は同意できません。これはもう自分の生き方だと思います。

弾丸列車の具体像

 新しい広軌幹線の曲線半径は最低で800メートルとされました。そのときの速度は時速110キロとありますから、最高時速300キロで走る現在の新幹線の半径2500メートルとはずいぶん異なります。以下、『蒸気機関車の挑戦』(齋藤晃)から多くを引用させていただきました。
 貨物列車の最高速度はボギー貨車で時速90キロ。ボギーというのは複数の車軸をもつ台車が2つ以上つく貨車です。ふつうの貨物車は2軸、4輪ですから、大きな車輌でした。ただし、時速75キロの2軸の貨車も走ることになるという意見も出ます。
 勾配は、貨物列車の停車状態から発車することが可能な範囲にします。1200トンの列車では、蒸気機関車なら7.9パーミル(水平に1000メートル走ると7.9メートル登る)、電気機関車なら12.5パーミルまでが可能でした。ただし、蒸気機関車でも動輪の下に砂を上手に撒けば10パーミルまで動かすことができたそうです。
 蒸気機関車には砂撒き装置といって、運転室からレバーを操作することでレールと車輪の間の摩擦を高めることができました。今でも各地に保存されている機関車を見ると、動輪の前に細いホースがボイラーの上の砂箱からつながっているのが分かります。
 500メートルまでの短い区間なら15.5パーミルまで可能。駅の構内では連結・解放しないところなら6パーミル、するところなら2.5パーミルとするということでした。列車は増結したり、切り離したりすることがあります。いまの東北新幹線の福島でも、山県新幹線を増結・解放するので、こうした配慮があるはずです。
 下りの連続勾配も問題になりました。1200トンの列車を時速90キロで走行中、900メートル以内で停止させるためには12パーミルが限界でした。

客車と列車について

 車輌の大きさを決定する車輌限界は高さ4800ミリ、幅2400ミリとしました。南満洲鉄道と朝鮮鉄道の車輌と足並みをそろえました。大きいとされるアメリカの鉄道の最大級よりは小さいものの、見劣りする大きさではありません。
最長の夜行急行は25メートルの客車15輌編成。30メートルの機関車と合わせると全長は430メートルとなりました。いまの新幹線の16輌編成と同じです。貨物列車が入るべきヤードは1200トンだと全長は485メートル、機関車と前後のゆとり分を入れて600メートルとなりました。
客車は25メートルを採用します。満鉄ではアメリカ製の客車を多く買っていたので、比較もしやすく、保守・点検の経験もありました。郵便車や手荷物車は22メートルとします。これも満鉄でのノウハウがあり、意外や手荷物はそれほど集まらないという考え方です。
それにしても齋藤晃氏の取材力は凄い物でした。特急列車の編成も分かります。1等車は展望車と寝台車で、荷物車、昼行特急は3等座席車が5輌、食堂車、2等座席車1輌、展望車1輌の9輌編成で425トン、乗客357人(ただし定員の60%の乗車率)。夜行特急は、荷物車、3等座席車が3輌、3等寝台車、食堂車、2等寝台車2輌、1等寝台車という9輌です。
最大、最重量列車は、夜行急行でした。荷物車、郵便車、3等座席5輌、3等寝台車3輌、食堂車、2等車、2等寝台車2輌、1等寝台車という全15輌、732トン、乗客514人です。
夜行でも3等車は座席中心で、満鉄の「あじあ号」が6輌編成でした。それに比べると、さらに長大であることに驚かされます。
東京-下関間を特急で9時間、急行で11時間、夜行急行で12時間かけて結びます。夜行急行は、ついこの間までのブルートレイン、「富士」や「さくら」よりもやや速いということが分かります。蒸気機関車時代にたいした計画です。
次回は蒸気機関車について学ばせてもらいましょう。
(つづく)
(あらき・はじめ)
(令和四年(2022年)9月21日配信)