特別紹介 防衛省の秘蔵映像(47) 防衛省秘蔵映像から見えること 2009(平成21)年の映像紹介

22大綱からの3年間

 2013(平成25)年に前回22大綱よりわずか3年で新しい大綱が出されました。
 2011(平成23)年には3月、東日本大震災の発生で自衛隊は大規模震災への派遣と原子力災害派遣も経験します。また5月には米国政府がウサマ・ビン・ラディン殺害を発表しました。6月からはジブチの自衛隊活動拠点運用開始、8月には中国がロシアから買い入れた航空母艦「ワリヤーグ」が初試験航行を始めます。同じ月には中国の漁業監視船が尖閣諸島のわが領海に侵入しました。9月、ロシア艦艇24隻が宗谷海峡を通過、明らかに揺さぶりです。11月には中国海軍の6隻からなる艦隊が沖縄本島と宮古島の間を抜けて太平洋に進出します。そうして、12月には米軍がイラクから撤退を完了しました。
 2012年にはアメリカが国防戦略指針を公表します(1月)。そうして中国の公船「海監」が3月にわが国領海に侵入。外務省は「遺憾砲」を撃ちまくりますが、一向に効果がありませんでした(苦笑)。4月には中国海軍艦艇が3隻で大隅海峡を通過し、太平洋に出ます。7月には中・露両国の動きは激しさを増し、ロシア艦艇26隻が宗谷海峡を通過、中国漁業監視船4隻が尖閣の領海に侵入しました。
 韓国も負けていません。8月には李明博韓国大統領が不法占拠を続ける島根県竹島に上陸して「守備隊」を激励します。9月になると、政府がようやく尖閣3島を購入しました。同じ月には中国海軍空母「遼寧」が就役します。10月には中国艦艇7隻が与那国島・仲の神島の間を通過し、12月には北朝鮮が「人工衛星」と称する弾道ミサイルを撃ち、中国航空機による初めての領空侵犯が起きました。
 2013年になると、1月から大事件が続きます。アルジェリアで日本人が拘束され、中国海軍艦艇がわが護衛艦搭載ヘリに火器管制レーダーを照射し、東シナ海では護衛艦に対して同じくレーダーを照射します。これは安全装置を外した拳銃を、相手の胸元に突きつけるのと同じで、射撃するぞという危険な威嚇行為です。中国艦艇は3隻で宮古島北東を通過し太平洋上に出ます。2月にはロシア戦闘機の領空侵犯、北朝鮮の3回目の地下核実験が行なわれました。3月には中国艦艇4隻による沖縄本島南西通過で太平洋進出。
 このようにわが国を取りまく安全保障環境が大きく変わって緊張が増してきたことを表しています。米国もこうした変化に応じて太平洋戦略の見直しも始めました。また、東日本大震災での自衛隊の活動は大きな教訓をもたらしました。将来のさらなる大規模災害への備えを取ることも課題となってきました。

たしかに有事ではない

 有事ではないものの、あたかも戦争につながりかねない中国艦艇の行動、北朝鮮の核保有などますます危険な状況です。官房長官は25大綱が国家安全保障戦略に基づくものであること、わが国は国際協調主義に基づく積極的平和主義の考え方の下に、ハード・ソフト両面における即応性、持続性、強靭性および連続性を重視した「統合機動防衛力」を構築すると公表します。
 ハード、装備です。ソフト、運用です。有事になったら「ただちに」、「短期戦だけではなく」、「したたかに」そして「単発ではない」、陸海空が一体となった柔軟性ある防衛力を目指すということでしょう。これは22大綱の「動的防衛力」よりもさらに踏み込み、運用(作戦)に焦点をあてた実効的な防衛力を目指すことを考えていたのです。

強靭な組織と運用を

 陸上自衛隊は編成定数が5000名増えました。東日本大震災では、やはり「頭数」だということが証明されたのです。最前線でスコップをふるい、瓦礫の中からご遺体を運び出す、被災者に手厚い対応をとる。やはり陸上勢力は減らせなかったのです。常備自衛官が4000人、即応予備自衛官が1000名増えました。
 作戦基本部隊の数は15個(9個師団+6個旅団)です。うち第7師団(北海道千歳市)だけが機甲師団といい、機動運用部隊とされていました。残りの14個の師・旅団は「平素地域配備する師団・旅団」とされていたところを、5個師団・2個旅団が「地域配備部隊」とされて、残りの3個師団・4個旅団は「機動部隊」と整理されることになります。
 中央即応集団はなくなりました。空挺団(千葉県船橋市)とヘリコプター団(千葉県木更津市)が機動部隊として復活します。さらに水陸機動団(2個連隊を基幹)が新たに編成されました。陸上総隊という各方面総監部の上級司令部が発足し、南西方面への備えも怠らないという意思表示です。さらに地対艦誘導弾部隊も機動運用部隊として1個連隊が増えました。地対艦ミサイルは洋上遠くの敵艦船を撃破します。
 ただし、戦車は400輌から300輌に、火砲もまた400門から300門へ減らされる一方です。戦車の代わりに装輪の16式装甲戦闘車も開発されて、火砲も普通科部隊に120ミリ迫撃砲が配備されるなどの工夫もありますが、重火器や戦車が減ってゆく現状を考えると、心配にもなります。

南西地区を重視する「統合機動防衛力」

 海上自衛隊は護衛艦勢力を48隻から54隻に増えました。しかもイージス・システム搭載艦は8隻です。潜水艦は22隻、作戦用航空機も20機増えて170機になります。空自も28個警戒隊となりますが、空中警戒機部隊が増えました。戦闘機部隊も1個増えて13個隊になり、作戦用航空機が20機増えて360機になり、うち戦闘機が280機です。
 昔は北方重視、対ソ連戦を考えて来た陸上自衛隊は明らかに西方に重点を移しています。それに協力する海自と空自、統合された組織としてますます姿を変えてゆくことでしょう。防衛費の奇妙な縛り、GDPの1%以内というようなものが破られ、予算も増えていくようです。

人は増えにくい自衛隊

しかし、同時に少子化、高齢化が進むわが国、自衛官、自衛隊員になる人が増えてくるかというと前途は明るくないと思います。ある方はこう言いました。「災害派遣に出て活躍する自衛官の素晴らしさにはいつも涙が出る。でもね、あんな危険なこと、うちの息子にはできないし、させたくもない」
たしかに自分の子供を喜んで自衛官にするかというとそういう人は少ないでしょう。現に我が家でも、夫婦は本人の意思だからと止めませんでしたが、亡母たちは戦争で兄弟を亡くしているので怒っていました。親だったら止めているでしょう。それもまた当然です。危険で、汚くて、厳しい、それでいて栄誉は少ない。給与も飛び抜けて良いわけではありません。
景気の良い時には募集難、不景気では人気が出る。そういったことを繰り返してきましたが、今後は適齢人口が減るという小手先の対策ではどうにもならない危機がやってきています。それでも国を守るという崇高な仕事に身を挺してくれる人が必要です。そのためには後方のわたしたちが出来る限りの応援をするしかありません。

おわりに

 もうすぐ令和3(2021)年も終わります。新しいオミクロン株もわが国に入ってきました。ぜひ来年こそ、コロナ禍の前と同じには戻らないものの、少しでも普通の暮らしに戻るようにしたいものです。
 どうぞ、皆さま、良い年をお迎えください。
 1年間、ご愛読ありがとうございました。
(つづく)
(あらき・はじめ)
(令和三年(2021年)12月29日配信)