陸軍工兵から施設科へ(49)  幻の弾丸列車計画(2)

ご挨拶

 安倍元総理の国葬が話題になっています。たしかに賛成・反対があり、その意見の表明はまったく自由です。それがわが国の良さであり、民主主義、自由主義が維持されていることの証です。しかし、反対論者のあまりに品がない、悪口雑言に嫌気がさすのは私だけでしょうか。一部の新聞や雑誌、あるいはSNSでもまき散らされていますが、根拠のない、一方的な罵詈は控えるべきではないでしょうか。
 
少なくとも長期政権を担った元総理、しかも海外からも多くの弔問客がみえるような偉大な政治家を送る葬儀です。それをまったく否定し、あたかも国費の無駄遣いとでもいうような主張には呆れてものも言えません。葬儀には、送られる方の格や立場があります。マスコミの一部には警備費だけで30億円もの巨費が必要だなどと、あたかも生活に苦しむ庶民から見て問題だなどという物言いをする輩がいます。
いつものマスコミの手口です。生前、元総理はホテルの3000円ばかりのカツカレーについてまで悪罵を浴びせられました。一国の総理は、我々のような者が食べる1000円のカツカレーを出すような店には行けないのです。よく考えれば、悪口をいう記者さんは、どんな店で、どんな値段のランチを食べているのでしょうか。
同じように自衛隊の総合火力演習も、決まり切った1日で砲弾やミサイルが何億円という報道の仕方もありました。いまも防衛予算がウン兆円とか非難していますが、その内訳や合理性について検討することもなく、金額が多い、無駄遣いだなどと主張しているように聞こえます。
政治家の中にも、財源がどうの、金額がどうのという方々もいます。国家の存亡のときに、そんなレベルの低い話でいいのかと考えてしまいます。もちろん、周辺諸国の気持ちを忖度しろなどと言う人は論外ですが。

弾丸列車計画

 夢を語り合っていた時代には東京-下関間を14時間くらいと考えられていました。それが1939(昭和14)年の実行案が出て来た頃には9時間に決まりました。
現在の東京発下り「のぞみ」の博多までの時刻表を見てみましょう。令和4年9月1日からのダイヤでは、「のぞみ1号博多行き」は早朝6時に東京駅を発車します。品川、新横浜と停車し、名古屋に7時34分、大阪には8時22分、岡山に9時10分、広島に9時50分、そうして新下関は通過しますが小倉駅に10時37分、終着博多には10時52分となっています。大阪まで2時間20分余り、博多まで4時間50分ほどとなっているのが現在です。
 現在の高度な技術で支えられた新幹線が達成している記録、その倍でしかありません。具体的にはどうしようとしたのでしょうか。答申によると、まず線路は在来の東海道や山陽線と並行する必要はない。複線にする。旅客列車を集中して運転せよ。貨物列車運転のために速度は落とすな。線路の幅は1435ミリメートル、線路や建造物の規格は朝鮮、満洲の幹線鉄道と同等、もしくは上にせよ。東京-大阪間は4時間30分、下関まで9時間を目標にせよ。直ちにこの計画を実行に移せ。というものでした。
 この弾丸列車構想は15カ年継続で、総額5億5610万1000円ということになりました。1940(昭和15)年から600万円で用地買収と測量に取りかかることになります。ちなみに手元の昭和13年版の国勢図絵を見てみると、一般会計の歳出は28億1390万円となっています。うち軍事会計費は14億1910万円、戦時下ですから歳出の50.4%にのぼります。

計画の細部

 青木槐三氏の『国鉄』によると、ゲージ(軌間)は国際標準軌1435ミリ、曲線半径は2500メートル以上、最高速度200キロの列車が走行可能。勾配は上り連続で最高1000分の10、下りは1000分の12(1000メートルの水平距離を進むと10メートル高度が上がり、下りは同じく12メートル高度が下がる)、レールは1メートル当たり60キログラム、カント(カーブでの片側線路の高さ)は最大16センチ、停車場の有効長は旅客列車500メートル、貨物列車600メートル、ホームの高さは1200ミリメートルでした。
 蒸気機関車はHD53型とHC51型、HD60型の3つのタイプです。いずれも3気筒で過熱テンダー機関車で先輪、従輪ともに2軸ずつ、Dは動輪4つ、Cは同3つを表します。HC51型は運転整備重量160トン、HD60型は172トンもありました。在来の東海道本線と同じく、電気機関車が東京-沼津間を担当します。HEF10とHEH50の2型式が開発されることになりました。
 この広軌蒸気機関車の重量を在来線最大の旅客機関車C62の重量を比べてみます。もちろん、C62は戦後の1948(昭和23)年製造ですが、運転整備重量145トン、貨物用の最大機D52の運転整備重量は137トンでした。
 この機関車については、当時の実情を探究された齋藤晃氏の『蒸気機関車の挑戦』(1998年、NTT出版)が勉強になりました。学ばせていただいたことに感謝しつつ、ご紹介します。
 駅は、東京、横浜、小田原、沼津、静岡、浜松、豊橋、名古屋、京都、大阪、神戸、姫路、岡山、福山、広島、徳山、下関の17とされます。実キロ数は東京-大阪間が492.5キロ、大阪-下関間が489.7キロを予定し、合計で982.2キロ、在来線より1割以上短くなっていました。
 東京-大阪間を4時間半で走ると平均速度は109.4キロ、山陽区間は同じく108.9キロになります。停車時間を入れると、それぞれ時速115.5キロ、117.1キロとなって、通して時速116.3キロとなります。これを達成するには最大時速150キロが必要になる理屈でした。このため全速で走るためには曲線半径は1500メートル、最低でも800メートルが必要でした。
 来週はさらに車輌や線路について調べてみましょう。
(つづく)
(あらき・はじめ)
(令和四年(2022年)9月7日配信)