特別紹介 防衛省の秘蔵映像(31) 新防衛計画―航空自衛隊の組織と編成(4)

1995(平成7)年の映像紹介
https://www.youtube.com/watch?v=qOvDvnV3bXY
 

はじめに

 今回、アフガニスタンからの邦人輸送には空自の国産中型輸送機C-2が1機と、C-130輸送機2機が飛びました。ほかに救難・警護に必要だろうということから、陸自の中央即応連隊から輸送誘導隊が参加したようです。詳しく報道はされませんが、緊急任務のために参加隊員は家族にも行き先や内容も告げずに飛び出していったといいます。
 外務省の職員の方々は「さっさと逃げた」などと批判を浴びているようです。しかし列国と国の在り方が異なる「軍隊がない国」の大使館には警備兵力がありません。ふつう大・公使・領事館はその国の領土と同じですから、国土防衛、国民守護のために海兵隊や陸軍などの軍隊がいます。わが国にはそうした制度はありません。
 もちろん、外国の駐在武官にあたるアタッシェ(大使館付き武官)としての防衛駐在官(現役の陸・海・空自幹部)はおりますが、身分は外交官でしかありません。警備官という立場の自衛官もいますが、あくまでも館内の警備を企画する立場で、「戦う軍人」ではありません。部下どころか武器だってないのです。
 高邁な憲法論議も重要ですが、すぐに起きる危険な事態に何かできないか考えなくてはなりません。今度の選挙でも、こうしたことを語る人がいないのは確かです。海外邦人の安全確保や撤収救援は何が起きても外国任せ。「日本人は腰ぬけ」という批判もあることを皆さん知っておられるのでしょうか。
 有力な総裁候補の方は、「自衛隊法の改正」で対応できるとおっしゃっているそうです。それでは「正当防衛」という事態でなくては武力行使ができないのは変わりません。離れたところの邦人の危険を進んで救いにいくことはできないのです。

航空自衛隊の任務と組織

 空自の任務は「防空」です。海自・陸自と大きく異なるのが、平時でも領空侵犯対処のために24時間、警戒監視と緊急発進待機の態勢をとっています。緊急発進はスクランブルといわれ、わが国の領空に侵入しそうな「国籍不明機」があれば直ちに正体を確かめに戦闘機が飛び立つことをいいます。
 航空作戦を担当する「航空総隊」を頂点にして航空支援集団、航空教育集団、航空開発実験集団、補給本部などの部隊・機関を中心にしています。航空総隊は海自の自衛艦隊、そして現在の陸自陸上総隊に相当する実働部隊です。また、隊務に関する防衛庁長官の幕僚機関である航空幕僚監部(当時は東京都港区檜町・現在は新宿区市ヶ谷)、その他の長官直轄部隊・機関があります。
 これらが当時、25個の基地と、51個の分屯基地に配置されていました。

航空総隊

 司令部は東京都府中市にあり、総隊司令官は空将(外国軍の中将)です。隷下には全国を4区分した空域を、航空方面隊(司令は空将・前同)・航空混成団(司令は空将補・前少将)が分担していました。それぞれの航空方面隊は、侵入機を戦闘機で要撃する戦闘航空団が2個、レーダーで国籍不明機を監視し、バッジ(自動警戒管制組織)で連接する航空警戒管制団、対空誘導弾で重要地域の局地防衛を行なう高射特科群を3本の柱としています。
 「要撃」という言葉を昔は「邀撃」と書きました。この「邀(よう)」という字の意味は迎(むか)える、待ち伏せるというものでした。「迎撃(げいげき)」も同じ意味です。自衛隊になって当用漢字を使うにあたって、同じく「待ち伏せる」という意味がある「要」を使うようにしたのではないでしょうか。
 このほか、航空方面隊には、航空施設隊、基地防空隊、音楽隊などもあります。
 航空団(司令・空将補)は司令部と飛行群(群長・1等空佐)、整備補給群、基地業務群で編成されています。飛行群には2個飛行隊(隊長・2等空佐)があります。警戒管制団(司令は空将補)は司令部、防空管制群、数個の警戒群、整備補給群、基地業務群、移動警戒隊、警戒資料隊、その他の部隊から成っていました。

防空の要・航空方面隊

 北部航空方面隊は三沢基地(青森県)に司令部を置いています。北緯39度以北の北の空を守っています。千歳基地に第2航空団(F-15)と三沢基地に第3航空団(F-1支援戦闘機)を置いて、警戒管制団はやはり三沢に司令部があり、レーダーサイトは9か所です。高射群(ペトリオット・ミサイル)は第3高射特科群(北海道空知支庁長沼町と千歳)に、第6同(青森県西津軽郡車力町・北海道渡島支庁八雲町)と第1基地防空群(千歳・北海道石狩支庁当別町など)があります。
 中部航空方面隊は、東経134度以北の本州上空を受け持ちます。戦闘機部隊は第6航空団(石川県小松基地、F-15とF-4改)と第7航空団(茨城県百里基地、F-15とF-4改)です。ミサイル部隊は関東地区の第1(本部は埼玉県入間基地)高射群、中京・阪神地区を守る第4(本部は岐阜基地)高射群になります。レーダー部隊は入間に司令部を置いて警戒群が8個です。また、海上遠く離れた東京都小笠原村硫黄島(いおうじま)に移動訓練基地を置いたので同島に基地隊を置いています。
 西部航空方面隊は福岡市の南にある福岡県春日市に司令部を置き、同基地には警戒管制団(7個警戒群)司令部、第2高射群本部(芦屋・築城・高良台にミサイル・サイトがある)もあります。芦屋(あしや)は福岡県遠賀郡の町、築城(ついき)は福岡県築上郡(ちくじょうぐん)の町、高良台(こうらだい)も同県久留米市になります。北九州市、福岡市の防空態勢はこの通りの充実ぶりです。飛行部隊は新田原(にゅうたばる・宮崎県新富町)基地に第5航空団(F-15とF-4改)と築城基地の第8同(F-1とF-15)ですが、新田原ではイーグル・ドライバー(F-15パイロット)の養成課程もありました。
 南西航空混成団は、航空方面隊のミニ版です。那覇には第83航空隊(F-4の1個飛行隊)、警戒管制隊本部、第5高射群本部もあります。レーダーサイト(警戒)は4か所で、他には奄美大島に通信隊があり、ミサイル・サイトは3か所になります。

総隊直轄の部隊

 百里(ひゃくり)基地にはつい先ごろ引退した偵察航空隊がありました。F-4ファントムを改造したRF4-Eを装備していました。地上すれすれも飛ぶこともあり、緑や茶色を使った3色迷彩と機首のシャーク・マークが独特でした。
 警戒航空隊、グラマンE-2Cホークアイ早期警戒機を13機装備していました。基地は三沢です。E-2Cは1976(昭和51)年のソ連戦闘機MiG-25の函館空港着陸事件をきっかけに、低空侵入機への対処能力を向上するために導入したものです。もっとも空自はこの高い能力を低空侵入機の捜索だけでなく、地上レーダーサイトの機能代替、通信中継など航空作戦全般の指揮中枢機能として運用していました。目標情報を自動処理して、バッジシステムと要撃機に目標情報の自動伝送も行いました。平成5、6年度予算でAWACS(ボーイングE767)4機の導入が認められます。
 バッジシステムの情報処理の総まとめ、総隊戦闘指揮所の運用を担任する防空指揮群も府中にあり、プログラム管理隊(入間基地)がソフトを受け持っています。また、アグレッサー(敵役)部隊として名人揃いといわれる新田原の飛行教導隊も直轄です。
 総隊司令部飛行隊は、連絡・要務飛行のためのT-33、T-4だけでなく、電子訓練支援のための電子戦機C-1EやYS-11Eなどもありました。
 パトリオット部隊要員教育のための静岡県浜松基地の教導高射隊も総隊直轄です。
 次回は航空教育集団、航空支援集団、補給本部、長官直轄部隊等を紹介します。そうして、平成8(1996)年の画像紹介に進むことにいたしましょう。
 
(あらき・はじめ)
(令和三年(2021年)9月8日配信)