陸軍砲兵史-明治建軍から自衛隊砲兵まで(115) 自衛隊砲兵史(61) ヒトロク大綱とその後

□ご挨拶

 いよいよわたしの暮らす関東地方も入梅になりましょうか。先日も機会をいただき、自衛隊砲兵の実弾射撃の景況を見せていただきました。装輪の19WHSP、装軌の99HSP、また従来のFH70による155ミリ砲弾の炸裂、特科ではありませんが普通科部隊の60、81、120の各種迫撃砲の射撃を、隊員の皆さんの手練の行動とともに満喫したところです。

 おかげさまで拙著『自衛隊砲兵』も皆さまのおかげでアマゾンでは自衛隊部門のベストテンに定着しております。過去、戦車や機甲戦についての名著の数々はありますが、火力戦闘の大部を占める「砲兵」(野戦特科部隊)を正面から取り上げた書籍は珍しいとのご評価も多くいただいています。正面装備といわれる戦闘の主役の1つでありながら、正確に知られていたことが少なかったのです。

 もっとも、やはり「文系には射撃のシステムが理解しにくい」「過去については詳しいが、自衛隊特科部隊の現状解説には不満」という厳しいご指摘もあります。前者については、文系を自称される方からのご批判であり、解説の力量がなかったと申し訳なく思います。後者については保全上の問題もあり、妥当な内容、文量だと信じております。

 現状の元をなすのは今回ご紹介する「16大綱」です。

▼17中期防

 16大綱に基づいた17中期防(平成17~21年度対象)の具体的施策は、編成定数を2004(平成16)年度末の16万5000人から15万5000人に減らしたことから始まります。15万5000人の内訳は常備14万8000人と即応予備自7000人となりました。

 また基幹部隊を10個師団、4個旅団、中央即応集団という構成から、9個師団、6個旅団、中央即応集団の体制に移行します。これによって、2004年に第5師団(北海道帯広)、2006年には第2混成団(香川県善通寺)、2008年には第11師団(北海道札幌)、2010年には第1混成団(沖縄県那覇)が、それぞれ第5、第14、第11、第15旅団に改編されました。

 なお、中央即応集団は2007年に生まれます。これまで防衛大臣直轄部隊である機動運用部隊だった第1空挺団(千葉県船橋市)、第1ヘリコプター団(千葉県木更津市)や、特殊戦部隊である特殊作戦群(2004年新編)、中央即応連隊(栃木県宇都宮市)、第101特殊武器防護隊(埼玉県大宮市・現中央特殊武器防護隊)、対特殊武器衛生隊(東京都世田谷区)などで新編されました。

 この中央即応集団は、2018(平成30)年に、陸上総隊の新編によって廃止されます。現在、総隊には中即応の隷下だった部隊に加えて、水陸機動団(長崎県佐世保市)、システム通信団(東京都新宿区)などが配され、防衛大臣直轄部隊になっています。

▼22大綱

 平成22(2010)年の大綱では、安全保障環境の変化に合わせて「動的防衛力」ということがいわれました。まず、国際テロリズムの脅威、北朝鮮の核・弾道ミサイル開発、中国の軍事力増強と海洋進出などがその背景にあります。

 大綱の大元の方針は、事態発生時の対処だけでなく、平素からの常時継続的な防衛力の運用による「動的な抑止力」を重視して、運用に焦点を当てるという考え方です。多機能で弾力性があり、実効力もある防衛力にしようというものでした。思い切った「効率化・合理化」ということもいわれます。

 この別表には、編成定数15万4000人(常備14万8000、即自6000)、機動運用部隊としては、1個機甲師団、中央即応集団を想定し、地域配備部隊は8個師団、6個旅団として、新たに地対艦誘導弾部隊として5個地対艦ミサイル連隊の項目が加わりました。

 戦車や主要特科装備(火砲)については、各400輌/門とし、削減の方向は進みます。23中期防(平成23~27年対象)では、2013(平成25)年に九州福岡の第4師団、群馬県の第12旅団が即応近代化ということで改編されました。

▼「統合機動防衛力」の26中期防

 平成26~30年度を対象とした26中期防では、2018年に中央即応集団を廃止し、「陸上総隊」を発足させます。これは陸自実動部隊の指揮統合をめざしたものです。海自には自衛艦隊があり、空自には航空総隊がありました。それぞれ最高指揮官としての司令官がおり、これに対して、陸自には各地方総監が5人いました。それは戦前の陸軍と同じです。統合した司令官はいないのが陸自の伝統でもありました。海軍にあった聯合艦隊司令長官と同じような立場になる総司令官は陸軍にはなかったのです。水陸両用作戦部隊である「水陸機動団」が新編されたのもこのときでした。

 特科火砲の集約・整理、戦車部隊を整理し、戦車の保有数を縮小します。戦車は北海道と九州に集約配備することになりました。戦車、火砲の保有数が、それぞれ300輌/門となります。

▼30大綱の「多次元統合防衛力」

 25大綱では「統合機動防衛力」がいわれました。宇宙・サイバー・電磁波(ウサデンと略称しました)を含む、すべての領域における能力を有機的に統合すること、平時から有事までのあらゆる段階において柔軟かつ戦略的な活動を常時、継続的に行うことなどが明確にされました。これを多次元統合防衛力とします。

 別表には、「島嶼防衛用高速滑空弾部隊」、「弾道ミサイル防衛部隊」の項目が加わりました。島嶼防衛用高速滑空弾(これから滑空弾と略します)とは、これまでのトマホーク、12式地対艦誘導弾、新対艦誘導弾、地対地精密誘導弾などは亜音速の巡航ミサイルに区分されるものとは一線を画しています。滑空弾は「極超音速滑腔ミサイル(HGV)」です。

 大気圏外に射ちあげられた後にブースターを分離し、弾頭だけが地球大気の上を滑空して飛翔を続けます。目標付近で急降下して突っ込んで、マッハ5以上の速力で落下します。既存の兵器では迎撃が難しい強力な地対地ミサイルです。

 次回は31中期防(平成31~令和5年度)について、数々の兵器開発について考えて行きましょう。(つづく)

荒木肇(あらきはじめ)
1951(昭和26)年、東京生まれ。横浜国立大学大学院教育学修士課程を修了。専攻は日本近代教育制度史、日露戦後から昭和戦前期までの学校教育と軍隊教育制度を追究している。陸上自衛隊との関わりが深く、陸自衛生科の協力を得て「脚気と軍隊」、武器科も同じく「日本軍はこんな兵器で戦った」を、警務科とともに「自衛隊警務隊逮捕術」を上梓した(いずれも並木書房刊)。陸軍将校と陸自退職幹部の親睦・研修団体「陸修偕行会」機関誌「偕行」にも軍事史に関する記事を連載している。(公益社団法人)自衛隊家族会の理事・副会長も務め、隊員と家族をつなぐ活動、隊員募集に関わる広報にも協力する。近著に『自衛隊砲兵─火力戦闘の主役、野戦特科部隊』。