陸軍砲兵史-明治建軍から自衛隊砲兵まで(101)自衛隊砲兵史(47) 米空母のシステム

2025年3月3日

□ご挨拶

 今年ももう3月になろうとしています。大雪で苦労されている方々に、心からお見舞いを申し上げます。全国各地のお友達からは雪害に関する情報がもたらされています。わたしのような春がいよいよ近い気分でいる人間にとっては、いま一つ他人事のような気がしてしまいます。そうであってはならない、「自分ごと」にしっかりとらえて、当事者の方々のご苦労に少しでも思いをはせることがなくてはいけないと自戒しているところです。

いよいよウクライナの戦争も満3年目を迎えるようですが、やはりトランプ氏の登場で、大きな変化が起きそうです。これもまた、ついつい平和に見える自分の日常を当たり前だと考えてばかりいると、ますます正確な判断ができなくなります。

さて、今回は空母、空母打撃群について素人ではありますが、自分なりの考えをまとめるためのわたしの貧しい知識をご紹介しようと思います。もちろん、海軍については全くの素人であり、多くは耳学問ですが。

中国海軍が3隻の空母をもつ現状、アメリカ海軍が圧倒的な空母勢力を維持する実態を少しでも正しくつかんでおきたいと考えるからです。

▼空母を活用する能力

 まず、空母(航空母艦)とは何か。これが生まれたのはおよそ100年前といっていいでしょう。米・英・日の3カ国がその発祥の地です。そうして発達したこの国々の空母は、いわゆる空母航空決戦を戦いぬきました。専用の艦載戦闘機、攻撃機、爆撃機なども開発されました。

 何よりも大変なのは、空母を活用する能力です。目標を攻撃し、同時に自らとその護衛にあたる艦隊の防衛が「空母のお仕事」の主要なものです。そんなことは当たり前ではないかと考えるむきもありますが、兵器や装備が十分に威力を発揮するには、システムとしての整然性が要求されます。

 まず、索敵、敵の位置を正確につかむ必要があり、そこへ攻撃隊を安全に誘導しなければなりません。当然、敵の妨害があり、それを排除する行動があります。帰ってきた攻撃隊は着艦します。そこには着艦管制が必要であり、艦隊や母艦の直衛指揮もし、敵火力への対抗手段の高射・捜索・迎撃火力の統制装置も使わねばなりません。

 帰還した航空機には給油、給弾、修理、補修をします。エンジンの整備、兵装整備・管理も必要です。兵装の装着、その運搬もしました。わが国海軍のミッドウェイ海戦の敗因の一つが、兵装の換装や、その爆弾・魚雷の保管状態だったとも言われます。

 この他に母艦自体の維持・運航や乗員、航空関係要員の生活に関わる作業があります。それこそ、ハード・ソフトの最適な組み合わせが当然で、一朝一夕にできるものではありません。たとえば、出撃する航空機搭乗員の出撃前のブリーフィング場の位置や、椅子の配置、スクリーンなども人間工学や過去の戦訓が生かされています。

 そうした経験の積み重ねがないロシアや中国の航空母艦がどれだけの能力を発揮するのか、過去の経験など関係がないのか、興味があるところです。

▼空母搭載機の2大攻撃任務

 大きく分ければ空母搭載機の攻撃任務は、対地目標に対するものと対水上目標に対して行なうものの2つに分けられます。冷戦の崩壊以前(1991年、ソ連は解散宣言で崩壊)には、高度な防衛機構を備えたソ連国内の地上目標と、北洋艦隊に代表された大規模なソ連艦隊という目標がありました。

 それが冷戦の崩壊以後は、脅威度が低くなった対地攻撃が主要なものになりました。その場合、敵基地を含む地上施設の破壊と敵航空部隊の撃破の2つが主要な任務でした。もし、攻撃任務の要件に敵航空部隊の撃破があるならば、敵の戦闘機勢力の撃滅が第1条件となります。

この場合、戦闘飛行隊と戦闘攻撃飛行隊に属する戦闘機と戦闘攻撃機の全力をあげて敵戦闘機の撃滅と敵飛行場の徹底的な破壊を行ないます。まず、敵の航空戦力を撃滅することが最優先になります。これは敵の航空攻撃の脅威がなくなれば、後になって残りの敵施設を破壊するのは容易であるという考え方によるものです。また、攻撃に際しては、地上レーダーを含む早期警戒網の覆滅も前提となりますが、これも同様な考え方に基づきます。

21世紀に入ってからは、F-18ホーネット戦闘攻撃機が攻撃任務にあたり、戦闘飛行隊のF-14戦闘機が護衛や制空任務にあたることが多かったようです。ただし、戦闘攻撃機にも各型式があり攻撃任務より護衛任務にあたることもあり、F-14の任務も状況によって攻撃や護衛任務は柔軟になっていたようです。

▼空母の中身

 大型空母の乗員はニミッツ級でシップズ・カンパニーといわれる固有乗員は3184名(うち士官は203名)、作戦航海中には空母航空団(CVW)2800名(同前士官は366名)が乗り組んでいます(ジェーン年鑑)。合計で5984名になります。固有乗員の士官の割合は約6%、対して航空要員のそれは約13%になり、搭乗員はみな士官で整備・補給にも高度な知識が必要なので当然のことでしょう。

 これからは海自関係の知人によるお話(20年ほど前)で受け売りですが、艦長はコマンデイング・オフィサーといわれ、しばしばスキッパー(艦長と訳せる)とも呼ばれます。階級はキャプテン(海軍大佐)で袖には4本の金筋、略装やシャツの襟にはイーグルが着いています。これには必ず、航空科出身者が任命されます。アメリカの空母艦長を写真等で見る時には、胸についたウィング・マーク(航空科の兵科章)に注目してもいいでしょう。

 わが帝国海軍は空母の運用期間が短かったので、搭乗員出身の空母艦長はおりませんでした。アメリカ海軍もおそらく同じではなかったかと思いますが、その点では海軍士官は元々「船乗り」の訓練を受けますから、空母を動かすことも難しいこともないのでしょう。米海軍も小型艦の指揮などの経験や空母副長などの経験を積んでいるようです。

 副長、エグゼキューティブ・オフィサー(XO)も大佐(キャプテン)、航空団指揮官(CAG)も大佐です。作戦航海中には3人のキャプテンが乗り組むわけです。

 艦内部署についても公開して差しさわりのない話を聞けました。各部署をデパートメントといいますが、総務科(海自では船務科)、機関科、補給科、作戦科、兵器科(海自では武器科)、通信科、医科歯科、飛行科、航空機中間整備科などに分かれます。他に原子力推進艦では機関科と別に原子炉科があります。

 飛行科は航空団とは別の空母固有の部署です。飛行甲板の作業全般を担当します。派手な識別用の服装で、大きなゼスチャーでカタパルト発艦を指示したり、着艦した機体を誘導したり、エレベーターを操作したりするのは飛行科の仕事です。飛行甲板の総責任者はコマンダー(中佐)のエアボスで航空科出身になります。

 見学に行くと緑の迷彩服を着た武装兵がいることに驚く方もいますが、艦内の治安維持に従うのは海兵隊員(マリーンズ)です。もともと英国海軍も米国海軍も治安維持のための海兵が乗り組むのは伝統でした。弾薬庫や艦長や高級士官の居住区の見張りなどに立っています。

 寄り道をしました。次回はいよいよ陸自の総攻撃です。


(つづく)

荒木肇(あらきはじめ)
1951(昭和26)年、東京生まれ。横浜国立大学大学院教育学修士課程を修了。専攻は日本近代教育制度史、日露戦後から昭和戦前期までの学校教育と軍隊教育制度を追究している。陸上自衛隊との関わりが深く、陸自衛生科の協力を得て「脚気と軍隊」、武器科も同じく「日本軍はこんな兵器で戦った」を、警務科とともに「自衛隊警務隊逮捕術」を上梓した(いずれも並木書房刊)。陸軍将校と陸自退職幹部の親睦・研修団体「陸修偕行会」機関誌「偕行」にも軍事史に関する記事を連載している。(公益社団法人)自衛隊家族会の理事・副会長も務め、隊員と家族をつなぐ活動、隊員募集に関わる広報にも協力する。