陸軍砲兵史-明治建軍から自衛隊砲兵まで(70)自衛隊砲兵史(16) 連隊戦闘団の戦い

□ご挨拶

 またまた線状降水帯が生まれそうだとか。天気ニュースを読んでいます。九州や山口県の皆さま、十分にお気をつけください。知人の元自衛官が多く県市町村の防災担当部署にいます。その話を聞くにつけ、各自治体のご努力がよく伝わってきます。自然災害はどうしても避けられませんが、それについての備えを怠っているわけではありません。少しでも皆さんの生命・財産を守るために多くの方々が努力されています。

その方々の勇気やガンバリを支えるのは住民の方々です。同じことが国防にも言えます。いま、自衛隊は多くの非難にさらされているところです。不祥事が次々と報道されて、某野党の代表は防衛費の見直しをすべきだ、予算を削るべきだなどと筋違いの主張をしています。それとこれとは違うだろうと思いますが、そういう主張や、それにうなずく方も多いことに危惧を覚えます。

 それにしてもパワハラによる部下からの告発や、幹部による隊食の無料喫食、潜水関係者の手当て不当受給などの卑しい行為が危惧されます。潜水艦の補修などでも裏金があって、それで潜水艦乗組員が接待を受けていたなどの報道もされました。

ここにわたしは海上自衛隊、しかも精鋭の潜水艦乗員、掃海の潜水員、護衛艦のCIC(戦闘指揮所)関係者を狙った「認知戦」の匂いを感じます。海自の戦力が落ちれば自分たちに有利になるといった外国の手が動いているのではないでしょうか。戦わずして戦力を削ぎ、しかも国民の信頼を失わせれば・・・。気になるのはどこに工作員がいて、どうやってリークしたかでしょう。

 何より、私たち国民が大切にすべきは、いまも警戒の目を光らせ、訓練に励み、任務を果たし続け、海外でも活動している多くの隊員たちへの支援、応援です。一自衛官の家族としても、よろしくお願いいたします。

▼ソ連軍とどう戦おうかとしていたか?

 1970年代後半(昭和50年)から80年代(昭和55年以降)、もしソ連軍が侵攻してきたら陸上自衛隊はどのような戦いをしようとしていたのでしょうか。当時、中隊長や若き小隊長だった方々からさまざまな話を伺うことができました。

 まず、普通科(歩兵)連隊を基幹にした戦闘団を編組します。甲師団は4個、乙師団は3個の「連隊戦闘団」をつくることができました。北部方面隊の通常の編組では、普通科連隊1個に戦車中隊(14輌)、対戦車小隊(MAT×4)、特科(砲兵)大隊(15センチ榴弾砲×10輌)、施設中隊、通信(合同通信所)、輸送(2・5トントラック×36輌)、武器(直接支援小隊)、補給(給水班)、衛生(治療小隊)などでした。指揮官は普通科連隊長が戦闘団長となりました。

 普通科連隊は4個の普通科(歩兵)中隊、1個の重迫撃砲中隊(107ミリ重迫撃砲×12)などで編成されて1200名くらいの人員がおります。普通科中隊は3個小銃小隊、迫撃砲小隊(81ミリ迫撃砲×4)、無反動砲小隊(106ミリ無反動砲×4)からできていて人員は約210名でした。小銃小隊は3個小銃班で、1個班は班長以下11名、対戦車火器として84ミリ無反動砲カール・グスタフ1門をもちます。

 連隊がもつ対戦車火器は、106ミリ自走無反動砲16門と84ミリ無反動砲48門です。これが連隊戦闘団になると、74式戦車14輌(各4輌の3個小隊と本部2輌)と79式重MAT4門が配属されます。

▼106ミリ無反動砲

 無反動砲とは「反動が無い」、つまり砲尾には閉鎖機がなく、復座駐退機や揺架も要りません。装薬のガスが抜けるようになっています。同口径の榴弾砲に比べるとはるかに軽量です。ほぼ10分の1の215キロしかありません。操作も容易で2~3人の隊員で連続発射ができます。

 開発されたのは第2次大戦の末期で、対戦車射撃や、敵特火点(トーチカなどの銃眼)射撃に有効でした。榴弾砲と比べると、ガスの一部が後方から漏れるので射程は短くなりますが、初速は高く、弾道も低伸し、射撃精度がバズーカ(ロケット・ランチャー)などより高くなりました。

 60式106ミリ無反動砲は、それまでの75ミリより口径、砲弾を大きくしたものです。昭和36(1961)年から日本製鋼が開発・国産化したものでした。ジープに搭載されたり、装軌車輌に2門載せられたりし砲身上の50口径(12.7ミリ)のスポット・ライフルで予備射撃を行ないました。初速は500メートル/秒、有効射程1100メートルでした。

▼84ミリ無反動砲

 リコイルレス・ライフルの頭文字をとって84RRとかカール・グスタフと愛称されます。重量は16.1キロ、全長は1.13メートル、有効射程は榴弾(弾重3.1キロ)で1000メートル、対戦車榴弾は有効射程が700メートル、弾重は3.2キロです。それまでロケランといわれてきた89ミリロケット発射筒M20改4型の後継としてスウェーデンFFV社から導入されました。

 ライフルの名の通り、砲身には施条されています。対戦車榴弾(HEAT)、榴弾、発煙弾、照明弾が撃て、対戦車榴弾の貫通力は角度がゼロなら400ミリに達します。輸入は1979(昭和54)年度から始まり、84年度からは豊和工業がライセンス生産を行ないました。

▼79式重MAT

 MATというのは対戦車ミサイルです。ミサイル・アンチ・タンクでMATとなります。最初の配備は国産の64式対戦車誘導弾でした。1956(昭和31)年から技術研究所、川崎重工、NECなどが開発を始めます。39年度に制式化されました。

 全長1メートル、重量15キロ、直径12センチの誘導弾は、ケーブルをひきながら秒速85メートルで飛びました。その間は眼鏡で照準する必要があり、照準手の誘導で複雑な飛行が可能です。ただし、ケーブルの長さが1500メートルまでなので、近接射撃しかできません。

 射程4キロ、むしろ短距離SSM(地対地誘導弾)に属するのが79式対舟艇対戦車誘導弾です。川崎重工が生産したので川崎KAM9ともいわれました。開発から制式化まで約10年という長い月日がかかります。64年(1989)度から74年度にかけて開発されました。

 誘導弾の中では第2世代といわれます。半自動方式というのが世代変換の理由です。ミサイルの本体は1.57メートル、胴体直径は15センチ、重量33キロ、コンテナに収められコンテナの重量を含めて42キロになります。この大型化、重という文字がつくのは目標を戦車だけでなく、小型上陸用舟艇までも含めたからでしょう。

 対戦車用と考えれば、従来のHEAT弾だけを考えればいいのですが、敵の舟艇にも打撃を与えるならHE弾(通常榴弾)が必要です。1発で撃沈、もしくは大破させるには、それ相当の炸薬量が要求されます。

 このミサイルの特徴は、発射機と射手を50メートルほど離すことができました。発射はブースターロケットで行なわれ、フィン(小翼)が開きます。秒速200メートルで飛ぶミサイルの制御はミサイル後部のキセノンランプが出すIRビームを照準器のセンサーが捕捉し、照準線に合致するようにワイヤーを通じてミサイルに信号を送ります。対舟艇攻撃の場合は、弾頭に音波発信・受信機をつけた近接信管装着の弾も使いました。

 89式装甲戦闘車にもこの重マットは搭載されています。(つづく)

 

荒木  肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、同大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。日露戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸海軍教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を行なう。横浜市の小学校で勤務するかたわら、横浜市情報処理教育センター研究員、同小学校理科研究会役員、同研修センター委嘱役員等を歴任。1993年退職。生涯学習研究センター常任理事、聖ヶ丘教育福祉専門学校講師(教育原理)などをつとめる。1999年4月から川崎市立学校に勤務。2000年から横浜市主任児童委員にも委嘱される。2001年には陸上幕僚長感謝状を受ける。年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、講話を行なっている。自衛隊家族会副会長。著書に『教育改革Q&A(共著)』(パテント社)、『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして軍隊をつくったのか-安全保障と技術の近代史』(出窓社)、『現代(いま)がわかる-学習版現代用語の基礎知識(共著)』(自由国民社)、『自衛隊という学校』『続自衛隊という学校』『子どもに嫌われる先生』『指揮官は語る』『自衛隊就職ガイド』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日本陸軍と自衛隊』『東日本大震災と自衛隊—自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『脚気と軍隊─陸海軍医団の対立』『日本軍はこんな兵器で戦った』『自衛隊警務隊逮捕術』(並木書房)がある。

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Posted by arakih