鉄道と軍隊(23)─大東亜戦中の鉄道部隊

荒木肇さんの最新刊

日本軍はこんな兵器で戦った−国産小火器の開発と用兵思想

「きわめて人間臭い、戦場の実相の一部が目の当たりに浮かぶような気がしました」(元自衛官)
「兵器装備というのは、予想戦場、兵士の知的水準、兵站補給、技術工業水準、その他もろもろの要素が絡み合って開発される・・・といった常識がとてもよく理解できました」(経済人)
日本の技術者はどんな兵器を開発し、兵士たちはどんな訓練を受け、戦ったのか?
先人への感謝と日本現代史に熱い思いを抱く、すべての人に捧げます。




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鉄道部隊の編成組織

 

 鉄道に関する部隊には珍しい編成のものもあった。鉄道橋梁大隊、鉄道工務大隊、鉄道工作隊、鉄道運営隊、その他に停車場司令部などもある。

 

 鉄道工務大隊は破壊された鉄道を修復したり、新線を建設したりした。予備役から召集された古参兵や補充兵出身の素人が多かった。国鉄から召集を受けた人も多かったので、特技者ということで重宝がられた。およそ昭和15(1940)年以降の動員くらいから精密になったが、聯隊区司令部に置かれた在郷軍人名簿にも職業、その内容の記載欄があった。鉄道員なら、無線手、保線手、駅務掛、機関手、改札・出札などの職種が区別されていたから、ねらいをつけて召集するのは容易だった。

 

 鉄道運営隊というのは耳慣れないが、停車場司令部と連携した部隊である。停車場司令部が軍需輸送の統制や事務連絡を行なうのに対して、運営隊は停車場司令部と調整しながら一般輸送の統制や事務連絡、駅の業務などを行なった。動員部隊の専用列車などの退避線の使い方や、弁当の調達などの企画は停車場司令官、実際の配布などは運営隊長の責任ということだ。

 

 なお、停車場司令部には将校や下士官の勤務員が多く、働く手足がない。それらの要員として鉄道関係者の多くが召集された。前回まで述べた満洲や台湾、朝鮮などの鉄道関係者も多く含まれていた。また、軍人としてではなく、軍属(文官・その待遇者、雇員・傭人)として勤務した人も多かった。

 

 第4、第5特設鉄道聯隊は南方作戦がひと段落ついた後に、現地の鉄道を動かすために編成された部隊である。ここには多くの軍属が配置された。両聯隊で合わせて780名余りの部隊で、指揮官は
少将が就いた。司令部には鉄道省から高等官2等(少将相当官)の軍属である技師が派遣されていて、鉄道監と称した。

 

 その下には運輸・橋梁・工務といった大佐・中佐が指揮する部隊があったが、そこにも隊長と同官等にあたる軍属技師がいた。総員の中に軍人は35名しかおらず、それだけが人事・衛生・経理・自動車運転・警備などを担当し、あとは鉄道の専門家ばかりだった。だから軍隊とはいえ、国鉄の一部門がそのまま移動したと言えなくもない。

 

支那派遣軍と関東軍の鉄道部隊

 

 支那派遣軍には第二野戦鉄道隊が置かれた。これを統括する司令部の名称は第四野戦鉄道司令部だった。このように隷下の部隊名と司令部名称が異なることがあるので注意しなければならない。

 

 だいたい歩兵以外の兵科の部隊を特科隊といったが、ふつう常設師団の中では第1師団の工兵隊は第1工兵聯隊、同野砲兵聯隊というように隊号は師団名と一致するが特設師団や独立混成旅団から改編された師団ではそうでない場合が多い。特別な鉄道関係部隊などの名称は、正規の建制部隊名を知るときに役に立たない。

 

 関東軍には野戦鉄道司令部が置かれた。実働部隊をいくつか集めて、それを方面ごとにあわせて指揮するのが普通だった。組織の大きさは規模に違いがあるが50人から100人くらいの頭でっかちの
(将校・下士官が多い)部隊が司令部である。

 

 聯隊や大隊の指揮機能をとる、上級部隊では司令部にあたる組織を本部といった。聯隊では聯隊副官以下の将校10人程度、それに技能系の下士官や補助の兵、経理部将校や軍医などを合わせて50人くらいだった。これが聯隊の下にある大隊だと本部員は5人くらいである。

 

 なお、日本陸軍の機動力の主役は鉄道部隊でも馬だった。聯隊長以下、佐官はみな乗馬本分者であり軍馬が配当されていた。尉官でも聯隊副官や大隊副官にも乗馬がある。南方地域では自動車を使うこともあったが、中国戦線や関東軍では馬がいて、本部には馬取扱兵が定員に入っていた。

 

敗戦時の内地の鉄道部隊

 

 昭和20年の内地部隊をみてみよう。最高指揮官は内地鉄道司令官といった。中将のポストだった。定員は約4万4000人だから全国に配置されたが大きな規模である。人員数では2個師団にあたる。

 

 小さい規模の部隊では樺太地区鉄道隊、63名。教導鉄道団司令部(6673名)があり隷下に鉄道第16と同17の2個聯隊があった。全国には合計9個の地区鉄道隊司令部がある。札幌、仙台、新潟、東京、名古屋、大阪、広島、四国、門司にあった。人員は幅広く、2000名から1万名にのぼる規模のものである。

 

 熊谷直氏の『軍用鉄道発達物語』の教えを受ければ、東京地区鉄道隊は人員6034名。停車場司令部が4個、独立鉄道作業隊が5個と独立鉄道第8大隊という編成である。戦争末期に空襲を受ければ被害に遭う路線や車輛などが多かった。線路の復旧に、車輛の撤去、軍用列車の運行統制などに活躍したことだろう。

 

 興味深いのは戦時中の旅行などで、当時のやむを得ない国鉄職員の横暴さなどは記録に残した人は多いけれど、鉄道兵への不満や怒りを伝える人は寡聞にして知らない。おそらく一般人と接触することはなく、軍用鉄道の運行や被害復旧などにあたる裏方だったからだろうか。

 

南方軍鉄道関係組織

 

 南方軍はシンガポールに司令部を置く巨大組織である。昭和18(1943)年には総兵力が30万人というものだった。そこには総司令官のもとに野戦鉄道司令部があった。総司令部はビルマ担当のラングーンに司令部を置いた第15軍(のちにインパール作戦に参加する)、ジャワ(インドネシア)にあった第16軍、シンガポールには第25軍の3個軍の指揮にあたった。その中の鉄道関連部隊は野戦鉄道司令部の統制を受けた。

 

 第15軍には第2鉄道監部があり、隷下には第102停車場司令部と第161同の2個隊、第5特設鉄道隊(770名)そして鉄道第5と同9聯隊が置かれた。これらの聯隊は各5000名の要員と集められた現地労務者もいた。

 

 第16軍にはもともとオランダの植民地だったので鉄道があった。そこには第4鉄道輸送司令部があり、運営の各組織に軍属などが配されていた。第25軍には2個の実働部隊があった。第4特設鉄道隊と珍しい
第2手押軽便鉄道隊である。

 

 次回からは映画にもなり、多くの不当な戦争犯罪人容疑者を出した「泰緬鉄道」の記録を数回に分けてお知らせしよう。

 

 

(以下次号)

 

 

(あらき・はじめ)

 

 

(2017年(平成29年)2月8日配信)

 



著者略歴

荒木 肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、同大学院修士課程修了。 専攻は日本近代教育史。日露戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸海軍教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を行なう。横浜市の小学校で勤務するかたわら、横浜市情報処理教育センター研究員、同小学校理科研究会役員、同研修センター委嘱役員等を歴任。1993年退職。生涯学習研究センター常任理事、聖ヶ丘教育福祉専門学校講師(教育原理)などをつとめる。1999年4月から川崎市立学校に勤務。2000年から横浜市主任児童委員にも委嘱される。2001年には陸上幕僚長感謝状を受ける。 年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、講話を行なっている。

著書に『教育改革Q&A(共著)』(パテント社)、『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして軍隊をつくったのか─安全保障と技術の近代史』(出窓社)、『現代(いま)がわかる−学習版現代用語の基礎知識(共著)』(自由国民社)、『自衛隊という学校』『続自衛隊という学校』『子どもに嫌われる先生』『指揮官は語る』『自衛隊就職ガイド』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日本陸軍と自衛隊』『あなたの習った日本史はもう古い!─昭和と平成の教科書読み比べ』『東日本大震災と自衛隊─自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『脚気と軍隊『日本軍はこんな兵器で戦った−国産小火器の開発と用兵思想』(並木書房)がある。


【防人の道NEXT】国民の理解が自衛隊を支える−荒木肇氏に聞く[桜H29/6/28]





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